「お別れは哀しいけど、お父さんとお母さんが納得済みなら私は何も言わないわ」
20歳の娘が言った。
結婚して22年。
俺49歳、元妻46歳で離婚したのが4年前だった。
お互い好きな異性がいて、それでもなんとか夫婦生活を続けていたが、娘が短大を卒業して社会人になったのを機に、離婚を決意した。
「あなたの彼女、若くて綺麗な人ね・・・」
「お前の彼氏は苦味走ったいい男だったな・・・」
浮気現場のラブホテルのロビーで夫婦バッタリ。
当時45歳だった俺は、当時28歳の女と浮気。
当時42歳だった元妻は、当時52歳の渋い男と浮気。
まさか同じホテルに居たとは知らず、その日、家に帰ってからお互いの気持ちを確認した。
「子供が独り立ちするまでは夫婦でいないか?形だけでもいいから・・・」
「そうね・・・そうしましょう。お互いの恋は邪魔しないでいて、それでも家では仲良くしましょうね」
こうして仮面夫婦を続けた。
娘が短大を卒業して、友達と卒業旅行に出かけた時、俺は元妻を誘った。
「なあ、新婚旅行があるんだから、俺たちは離婚旅行にでも行かないか?」
「そうね・・・夫婦最後の思い出を作りましょうか・・・」
こうして二人で出掛けた、ひなびた山間の温泉地。
元妻と二人で過ごす最後の夜だった。
豪華な料理を前に、差しつ差されつ、酒を飲んだ。
「これ、お前の好きなやつだな、やるよ」
「これはあなたが好きだったわね、あげるわ・・・」
こんな風にお互いを思いやれる夫婦なのに、性癖が歪んでお互いの刺激が物足りなくなっていったのだ。
俺が誘った最後の旅に、元妻が素直について来たのには訳があった。
「最後、私を抱くんでしょう?何年ぶりかしらね・・・驚かないでね・・・」
元妻の乳首には、奴隷の証のピアスが揺れていた。
「アソコも、こんなになってるのよ・・・」
恥裂から赤く肥大したクリ豆が飛び出ていた。
「あなたと別れたら、ここに婚約ピアスを通すの・・・」
「そうか・・・」
しばらく見ない間に、元妻の肉体は改造されていた。
包皮に隠れていたクリ豆を見たのは何年前だったろう・・・、そんなことを考えていた。
元妻の恥穴に肉茎を捻じ込んで、夫婦最後の交わりを愉しんだ。
「ア、アア、あなた・・・最後にあなたの精液・・・飲ませて・・・」
今まで飲精なんてしたことがなかったのに、元妻は俺の精液を欲しがった。
それほどまでに、心身を改造されるまで元妻が愛した男がいたのか・・・、驚きを隠せなかった。
もう二度と触れることのない乳房には、銀色のリングが揺れていた。
「アアァァァァァァァ・・・」
元妻の口に肉茎を添えると、ジュルジュルと音を立てて射精を一滴残らず飲み干した。
翌朝、元妻と二人で温泉街を歩いた。
「今日、帰ったら、そのまま家を出て行きます。明日、あの子が帰ったら出て行けなくなりそうだから・・・」
元妻が声を詰まらせた。
「そうか・・・」
もう、そうか・・・としか言えなかった。
帰りの車の中で、元妻は俺の運転する姿を見ながら言った。
「あなた・・・こうして安心して乗っていられるのも今日が最後・・・あの人、車の運転しない人だから・・・」
帰りがけ、市役所に立ち寄って離婚届を提出した。
家に着くなり、既にまとめてあった荷物を持って呼んだタクシーに乗って・・・。
「じゃあ、これでさようならね。お体、ご自愛なさってね・・・」
「ああ、お前も元気でな・・・」
そう言って元妻が乗ったタクシーを見送った。
家に入ると、俺一人の空間がやけに寂しかった。
仮面でも夫婦として暮らしてきたから、最後の夜はひと時だけ夫婦らしいこともしたから、他人になったとは言え元妻が家から消えたことは寂しかった。
翌日、娘が旅行から帰ってきた。
「お母さんは?」
「昨日、出て行ったよ」
「そう・・・お土産、買ってきたのにな・・・」
「お前に会うと心が迷うから、お母さんなりに考えての事だから、わかってやれ・・・」
「お父さん、優しいのね・・・お父さんは、これからどうするの?」
「どうもしないよ。お前がお嫁に行くのをこの家から見送るさ」
そう言いながらも俺は例の彼女と週2、3回のデートを重ねていたが、昨年、35歳の彼女が、「私達って、この先どうなるのかしら・・・」と言うので、「君の思い通りにした方がいいよ。俺も年だし、君を幸せにできる自信は無いから・・・」と言った。
彼女とのお別れ旅行は、わざと元妻との離婚旅行の宿にした。
元妻より14歳も若い彼女とのお別れ旅行で、俺は別れた元妻との思い出に浸っていた。
35歳の彼女を抱いて、最後の精液を彼女に蒔いた。
彼女がボソッと言った。
「私ね、お見合いするの・・・」
「そうか・・・」
「ゴメンね・・・そろそろ、将来を考えるとギリギリだから・・・」
「そうだな・・・」
翌日、彼女を乗せて帰路に就いた。
車の中は無言の空間だったが、彼女を下ろす場所が近付いた時・・・。
「私、本当はあなたのお嫁さんになりたかった・・・なんて、冗談よ・・・それじゃ・・・」
「幸せになれよ・・・」
「うん・・・ありがとう・・・」
元妻の時と違うのは、さよならを言わなかったこと・・・。
年の瀬が迫った今月半ば、届いたのは元妻の訃報だった。
詳しくは語られなかったが、どうやら緊縛の縄で窒息死したらしい。
新しいパートナーが警察へ任意同行を受けたと聞いた。
「お母さん、亡くなったって・・・」
「お父さんは、どうするの?」
「もう、お父さんの奥さんじゃないから、のこのこ行かないよ。ここで、お母さんとの思い出にお別れするよ」
「そう・・・じゃあ私もそうする」
こうして俺は元妻の思い出に浸りながら、元妻の話を書き込んで元妻に別れを告げた。