抱くたびその素晴らしい肢体に溺れた

社会人2年目のある日、直属の上司だった係長の自宅に招かれた。
係長は一見大人しそうで人畜無害なタイプ。
あまり若手を誘って飲みに行く人じゃないから意外だったが、
俺を元気づけようとしてるんだなと考え、ありがたく招待された。
実は俺、その半年ほど前に、長年付き合ってた婚約者を事故で亡くしていた。
悲しさを紛らわせようと仕事に打ち込んだが、傍から見て相当酷い状態だったらしい。
係長に誘われた時は、まあ何とか立ち直りつつある、くらいの時期だったと思う。

係長は当時30代後半で、郊外の一戸建てに奥さんと2人暮らし。
結婚7年目くらいで子供はいなかった。

奥さんの唯さんとはその時が初対面。
先輩社員から「係長の奥さん、若くて美人だぜ」と聞いてはいたが、本当だった。
当時30手前で、夏川結衣を少し地味にした感じの色白美女。
「若奥様」という表現がピッタリくる清楚で家庭的な雰囲気の女性だ。

係長本人はといえば、仕事はボチボチだし、見栄えもそれほどパッとしない。
人当たりは悪くないが、とてもプレイボーイってイメージじゃない。
申し訳ないが、どうやってこんないい女を…というのが率直な印象だった。

唯さんの手料理はどれも絶品で、自然と酒が進むし話も弾む。
さすがに亡くなった婚約者の話題は互いに避けたが。
奥さんは話し相手をしながら、俺や係長に酒を注いだり、手早く肴を作ったり。
水商売っぽい雰囲気じゃないのに本当によく気が付く人で、
ほんの何時間かの滞在で俺からの好感度は急上昇した。

夜も更け、そろそろ引き揚げようかという時間帯だったと思う。
唯さんが台所へ何か取りに行って席を開けた時、係長が俺にささやいた。
「うちの女房は初めてだよな。どう思う?」
「本当に素敵な方ですね。羨ましいです」

これは本音だった。係長は「そうだろう」という感じで頷くと、重ねて聞いてきた。

「それで相談だが、あいつとヤリたくないか?」

冗談めかした感じでもなくサラリと尋ねてきたから、最初は意味が分からなかった。

「えっ?係長、いま何て…??」
「だから、うちの女房を抱いてみたいと思わないか?」

思わず言葉に詰まった。
正直、唯さんと話しながら、その美貌と同時に体のラインが気になっていた。
中肉中背で、特別にグラマーというわけじゃないが、均整の取れたプロポーション。
露出の多い服でもないのに、そこはかとない色気が漂ってくる。
控えめなフェロモンがにじみ出てくる感じと言えばいいか。

「い、いえ…そんなこと…」

しどろもどろの俺を見て、係長はしてやったりという笑みを浮かべた。
若手をからかいやがって…と思ったが、真意をただすわけにもいかない。
それほど酔っているようにも見えないが、酒の上での脱線発言なんだろう。
間もなく唯さんが席に戻り、係長もその日は最後までその話題に触れなかった。

翌日、仕事が終わって引き揚げようとすると、
係長が「清水君(俺)、ちょっと付き合ってくれ」と声を掛けてきた。
断る理由もなく、連れ立って会社近くの小料理屋に入る。
個室風に仕切られた部屋で酒を酌み交わしながら、係長が切り出した。

「で…昨日の話、考えてくれたか?」
「え?昨日の話って…??」
「だから、うちの女房を抱くつもりはないかって話だよ」

忘れたわけじゃないが、まさか本気だとは思わなかった。
というか、どこの世界に妻の浮気相手になれと部下をけしかける上司がいる?
係長は真面目な口調だったが、何を考えているのか俺には理解できなかった。

「あの…係長、仰る意味が分かりません」
「そりゃそうだろうな。まあ、聞いてくれ」

係長の話は、要するに奥さんが他人に抱かれているのを見たいから
俺に是非協力してほしい、ということだった。
自分の妻を他人に抱かせて性的に興奮するなんて聞いたこともなかったが、
それも一種のSMプレーらしい。よく知らないが自虐趣味というやつか。
最初はひそかに想像するだけだったが、日を追うごとに願望が強まり、
最近では正常な夫婦生活も難しくなったという。

「そんなこと仰っても、奥さんだって嫌でしょう」
「女房は理解してくれてる」

実は以前に一度、ネット掲示板で募集した相手に唯さんを抱かせたそうだ。
ところが「相性が良くなかったのか、女房が苦痛そうだった」ため、
結局その1回きりだったという。
「相性以前の問題だろう」と思ったが、そこは突っ込まずにおいた。

「だいたい、なんで私に…?」

係長が言うには、まず俺が「体力があって真面目」だから。
確かに大学まで体育会にいたから体力には自信があるし、くそ真面目とも言われる。
同僚が休んだ日は徹夜で仕事して、そのまま通常勤務に入ったことも何度かあった。

それから係長は「言いにくいが」と断って、俺が独身で恋人もいないから、
面倒な事態も起きないと考えた、とも話した。これには少しズキッときた。

「それに昨日うちに来た時、女房を見る視線で「気があるな」と分かったよ」

嫌らしい目で唯さんを見てたのは事実。それを言われるとぐうの音も出ない。
亡くなった婚約者とは事故前、毎日のように激しく愛し合っていたが、
この半年間は「空白」が続き、知らぬ間に欲求不満が相当溜まっていたはずだ。

彼女を亡くした後、職場の何人かの女性からかなり露骨にアプローチされたが、
新しい恋人を作る気にはとてもなれなかった。風俗の類はもともと行ったことがない。
恥ずかしい話、はけ口を失った性欲が渦巻いていたと思う。

「確かに奥様は素敵な方ですよ。ですが…」
「女房も「清水君なら」とOKしてくれたんだ」

唯さんの爽やかな笑顔と、柔らかそうな肢体が脳裏に浮かんだ。
「あの体を抱いてみたい」「でも、他人の奥さんに手を出すなんて…」
悩む俺の背中を最後に押したのは、係長の言葉だった。

「俺も恥を忍んでここまで話したんだ。協力してくれないか」

確かに係長からすれば、とても公言できない夫婦の性癖を話したわけだ。
ここで俺が断ったらこれから先、お互い職場で気まずくなる。
係長が勝手に暴露したと言えばそれまでだが、真剣な表情に最後は俺が折れた。

「分かりました。でも、ご期待に沿えるか分かりませんよ」

土曜の午後、指定された時間に係長の自宅に出向いた。
係長は「おお、来てくれたか」と嬉しそうに玄関先まで出迎えてくれた。
「よろしくお願いします」と意味不明の挨拶をしながら
正直、まだどこか吹っ切れずにいる自分がいた。

奥さんを交えて3人で遅めの昼食。相変わらず絶妙な味付けだ。
係長はビール、唯さんは梅酒を飲んだが、俺は酒を控えた。
食事中、何度か唯さんと目が合ってニコリと微笑まれ、カーッと顔が熱くなる。
笑顔が本当に魅力的。黒目がちな瞳を見るだけで吸い込まれそうになる。
どう反応していいか分からず、視線を外しながら「ども」という感じで頭を下げた。
俺は何をしているんだ。

「じゃあ、清水君は寝室でくつろいでくれ。俺は自分の部屋に行くから」

食事が終わると係長はそう言い残して別室に消えた。
2人で残され、何を言えばいいか分からずにいたら、唯さんから声を掛けてくれた。

「ごめんなさいね。主人がとんでもないことお願いして…」

俺の腕に唯さんが手を添えただけで、心臓の鼓動が早まるのが分かる。
ここまで緊張するなんて、婚約者にプロポーズした時以来かもしれない。

「い、いえ。でも…本当にいいのかな」
「私みたいなオバさんじゃ嫌でしょうけど…」
「いえっ!そんなことないです」

慌てて否定すると、唯さんは嬉しそうに俺の胸に頭を預けた。
少しためらった後、俺もおっかなびっくり唯さんを抱き締めた。
俺の腕の中にすっぽり収まる体格。香水かシャンプーか、甘い香りがする。

「ね、寝室行こ」

唯さんの話では、寝室には何カ所か隠しカメラとマイクが仕掛けてあって、
係長は自室でモニターしている。「自然に振る舞ってくれ」という彼の希望で、
設置場所は教えてくれなかったが、そんなことを言われると余計に気になる。

「いいの。あまり深く考えないで…」

ベッドに腰掛けると唯さんが唇を押し付けてきた。唇がしっとり温かい。
抱き合いながら舌を絡めていると、興奮で理性が麻痺してくる。
俺はそのまま彼女を押し倒し、唇をむさぼりながら柔らかな肢体をまさぐった。

「ねえ…清水君、脱がせて」

言われるまま唯さんのブラウスを脱がせ、スカートとストッキングを下ろす。
純白のブラに包まれた胸は、想像したより大きめでDくらいありそうだ。
同じ白の上品なショーツから形の良い脚が伸びている。
まだ20代で子供も産んでいないせいか、全身が本当に美しい曲線を形作っていた。

俺は急いでシャツを脱ぎ、ズボンと下着も下ろした。
使用可能になるか不安だったが、股間のモノは痛いくらい気張りきっていた。

半年以上ぶりの女体に気持ちばかり先走り、ブラを外す指先が小刻みに震える。
生の乳房は白くて丸くて見事な形。手を置くと軟らかな肉に指が包まれる。
俺は吸い寄せられるように膨らみを掴むと、淡い色の乳首にむしゃぶりついた。

「ああ…んんっ…」

唯さんは切ない声を漏らし目を瞑ると、俺の後頭部に腕を回す。
性欲に支配され、一刻も早く股間のモノをねじ込みたくなった俺は、
ショーツを脱がそうとするが、焦ってうまく指に掛からない。

「ふふ、落ち着いて。ゆっくり気持ちよくなろ」

唯さんがクスッと笑い、俺も我に返った。そうだ、別に急ぐことない。
ほとんど×××魔みたいな自分が急に恥ずかしくなる。
深呼吸してから改めてショーツを下ろすと、きれいに整えられた陰毛が顔を出した。
両脚をゆっくりと開き、ゾリッとした感触をかき分けて陰唇に指を這わせる。
唯さんが恥ずかしそうに両手で顔を覆った。

ここまで来て言う話じゃないが、俺は決して女性経験が豊富じゃない。
もちろん亡くなった婚約者とは数え切れないほど体を重ねたが、
彼女とはもともと幼馴染で、初体験の相手でもあった。
以来、浮気とも風俗とも無縁だったから、唯さんが人生で2人目の女性になる。
「ええと…こんな感じだっけ」唯さんの体を愛撫しながら、
知らない間に婚約者の体を思い出そうとする自分が悔しかった。

下手なりに頑張ったせいか、唯さんの股間はすぐ濡れてきた。
指を進めると、ねっとりした粘膜にずるりとのみ込まれた。かなり奥行きがある。
反対側の手で陰唇を開き、親指の先でクリトリスを愛撫。
そのまま2本指を出し入れすると、唯さんは「あっ、あっ…」と喘ぎ声を上げる。
さらに指を深く挿し込み膣内をかき回しながら薬指と小指で肛門を刺激したら、
「あっ…イヤ…あああっ…いやああぁぁ」と叫んで体がビクンと痙攣した。

「あ~ん、イッちゃった…」

恥ずかしそうな唯さんの仕草が最高に可愛い。

「今度は私の番…」

彼女は体を起こすと俺の下半身に顔を寄せ、臨戦態勢のペニスを優しく握った。
しなやかな指の感触だけで発射しそうな感覚に襲われる。

「大きいんだ…それに硬い」

独り言のようにつぶやいた唯さんが舌を伸ばし、亀頭をゾロッと舐めあげる。
それだけで脊髄を快感が走り抜けた。半分は状況に興奮してたんだろう。
唯さんは一通り竿を舐め回すと、ゆっくりと亀頭を口に含む。
青筋の浮き出たペニスは、半分くらいのみ込んだところで喉に達したらしい。
ジュル…ジュル…と独特の音を響かせて吸いながら、口の中で舌先が亀頭を刺激。
経験が浅いから比較しようもないが、これまでにない快感に肛門がヒクヒクする。

「あっ…駄目です…もう…」

俺の情けない声を聞いた唯さんは、止めるどころか顔と舌先の動きを早めた。
尻がガクガク震える。ああっと思う間もなく我慢の限界点を超え、
俺は彼女の後頭部を両手で掴みながら口内に精液をぶちまけた。

「すごい…いっぱい…」

ティッシュに精液を吐き出した唯さんは驚いたような口ぶりだ。
回らない頭で、俺ってこんなに早漏だったっけと、ぼんやり考えた。

自分の恥ずかしい姿を監視されてるなんてことは、とうに頭から消し飛んでいた。
唯さんをしなやかな裸体を抱き締め、精液の残り香で生臭い唇を吸い立てる。
唯さんも俺の背中に手を回し、艶めかしい裸体を全身で擦りつけてきた。
なぜか彼女を「愛しい」という気持ちが全身から溢れてくる。



俺は唯さんを横たえて脚を開かせると、愛液が溢れた性器にむしゃぶりついた。
俺はSかMかは分からないが、とにかく気持ちよくなって欲しい。
その一心でクリトリスを舐め回し、膣に舌先を突っ込み、肛門を指で刺激した。

「いいっ…いいいぃ~…ああああぁ~~」

唯さんは俺の髪を掴みながら2度、3度と果てた。

ぐったりした唯さんの髪を撫でながらコンドームを装着。
プレー内容は俺に委ねられてたが、ちゃんと避妊するのが係長との約束だった。
もっとも係長宅の常備品は小さすぎたので、持参した自前のを使ったが。

もう一度抱き合い、濃厚なキスを交わしながら見つめ合う。

「本当に…いいんですか?」
「うん…来て」

我ながら無粋な質問だと思ったが、彼女は笑顔で目を瞑った。
硬さを失わないペニスに手を添え、膣口にあてがうとゆっくりと腰を進める。
十分に潤った膣に勃起がズブズブとのみ込まれていった。

薄いゴム越しに温かな粘膜が勃起を包み、股間から脳髄まで快感が貫く。
「セックスってこんなに気持ち良かったんだ」
ペニスを出し入れしながら、そんな馬鹿なことを考えた。
俺の体の下では唯さんが口を半開きにして悶えていた。
何度目かの快感の波に、もう耐えられないと判断した俺は腰の動きを早める。

「ああん…ああぁ…ねえ…きて…きてえぇぇ~!」

唯さんがビクビクッと体を震わせ、膣が俺の勃起を締め付けた。
俺は彼女の体を抱き唇を重ねる。舌を絡めながら、唯さんは俺の背中に爪を立てる。
同時に一番奥まで挿し込んだ亀頭の先から生温かい粘液が噴き出した。

まるで全精液を搾り出したかと思うほどの開放感と虚脱感。
唯さんは呆然とする俺を優しく抱き締め、後頭部を優しく撫でてくれた。

「凄かった…清水君、素敵だったわよ」

荒れた呼吸が少し落ち着いてくると、
改めて自分の置かれた立場を思い出し、猛烈な恥ずかしさに襲われた。
そうだ、ここは係長夫妻の寝室。しかも一部始終を別室の係長が見ていたはずだ。
納得して来たとはいえ、どうしようもない居心地の悪さを覚えた俺は、
まだ興奮から冷めないベッドの唯さんに視線を向けないよう、急いで服を着た。

部屋を出ると係長が待ちかねた様子で待っていた。ほろ酔いで上下とも肌着だけ。
相当興奮してたんだろう。トランクスの中央部分が不自然に盛り上がってる。

「いやあ清水君、凄かった。あんなに感じる女房は初めて見たよ」

目を血走らせてまくし立てる係長。少し尋常じゃない空気を感じる。
それ以前に罪悪感もあって、係長の顔をまともに見ることができなかった。

「いえ…」

何とか搾り出した俺の言葉も聞こえないのか、係長が口角泡を飛ばして続けた。

「シャワーはそっちにあるから使ってくれ。
それから冷蔵庫にビールがあるから、好きなだけ飲んでいいぞ」

職場では日ごろ物静かな係長が、まるで別人のようなはしゃぎぶり。
一刻も早く唯さんを抱きたいらしく、俺と入れ替わるように寝室に飛び込んだ。

「あなた…ごめんなさい。感じちゃった…」
「いいよ、いいよ~、どうだった?」

後ろ手に閉めた寝室から夫婦の艶っぽい会話が聞こえる。なぜか気分が落ち込んだ。
生ぬるい水道水を蛇口から直接口に流し込むと、俺はシャワーも浴びずに靴を履き、
逃げるように係長宅を後にした。

「女房が気に入っちゃってねぇ。またお願いできるかな」
「あ、はい…私でよければ」

それからというもの、土曜の午後は係長宅に出向いて唯さんを抱くのが習慣になった。
一度は誘いに応じて義理を果たしたわけで、断っても問題ないはずだが、
とにかく唯さんに会いたかったし、彼女を抱きたかった。
会うたび彼女の美しさと優しさに惹かれ、抱くたびその素晴らしい肢体に溺れた。

最寄り駅から係長宅まで俺の足で10分ほど。家に着いたら3人で食事する。
終わると係長は自室に籠もり、俺は背中に視線を感じながら寝室で唯さんを抱く。
事が終わって寝室を出ると、待ち構えた係長が入れ替わり唯さんに襲い掛かる。
寝室に響く夫婦の楽しげな声に、俺は「スパイス」の立場を思い知らされ、
やるせない気分になって係長宅を出る。

気分を変えるため、ラブホテルを使うこともあった。
係長が運転して俺と奥さんをホテルに送り届け、本人は駐車場や外で待機する。
部屋でのやり取りはICレコーダーに録音する約束だった。
事が済むと再び係長の車に乗り、最寄りの駅で俺を降ろすと夫婦は自宅に向かう。
家に着くまで待ちきれず、夫婦で別のラブホテルに入ったり、
人目に付かない場所でカーセックスを楽しんだりもしてたんだろう。

「旦那公認であんないい女を抱けるんだから、体だけの関係で満足しろよ」
そう割り切ろうと努めた。でも、唯さんは会うたび俺に優しく接してくれて、
そのたび俺の中で性欲とは別物の強い感情が湧き起こってくる。
ラブホテルで俺の腕枕に身を委ねる彼女を見ると、激しく心が揺さぶられた。

この後で唯さんが係長に抱かれるのかと思うと、身を引き裂かれるような気分。
夫婦の営みに嫉妬する方がおかしいと分かっていても、とにかく辛かった。

関係を始めて半年ほど。いつも通り係長の車で国道沿いのラブホテルに入った。
その日の唯さんは、いつもにも増して念入りに化粧し、美しく着飾っていた。
そういえば係長、「今日は結婚記念日なんだ」と言ってたな。
そんな日まで俺に奥さんを抱かせるのか?でも、本当にきれいだ。
部屋に入ってから、ICレコーダーのスイッチを入れる前に聞いてみた。
俺の精神も限界に近づき、何か「答え」が欲しかったんだと思う。

「あの、唯さんは、こういうの…平気なんですか?」

唯さんに直接尋ねたのは初めてだった。怖くて聞けなかったというのもある。
唯さんは澄んだ瞳で俺をしばらく見て、小さな声で、しかしはっきりと答えた。

「平気じゃなかったわよ」

「だったら、その…どうして?」
「うーん、あの人が喜ぶから…かな」
「ご主人が喜ぶからって、好きでもない相手と…なんで?!」

興奮してるのか、ちゃんとした文章が口から出てこなかった。
短い沈黙の後、唯さんは少し伏し目になってつぶやいた。

「…夫婦だもん」

目の前が真っ暗になった気がした。実は俺の中には、ほんの少しだけ
「唯さんも楽しんでるはず」「もしかしたら俺のことも少しは思ってくれてるかも」
なんて甘い考えがあった。そう思って罪悪感を鎮め、自分を納得させてきた。

でも、そうじゃなかった。唯さんはやっぱり嫌々俺に抱かれていた。
嫌だけど、愛する夫のため我慢していた。
そう思うと強烈な自己嫌悪と恥ずかしさで消えてしまいたくなった。

「あの人ね、いつも清水君の後で私を抱く時に聞いてくるの。
「アイツのはどうだった?」「俺より感じたか?」 「心も奪われたか?」ってね」

「それで、私が「あなたの方が満足するわ」「愛してるのはあなただけ」って言うと、
喜んで張り切ってくれるのよ。子供みたいに」

「最初はね、主人以外の人で感じる自分が嫌だった。
でも、こういう夫婦もアリかなって、そのうち思うようになったんだ」

唯さんはどこか悲しそうに話す。俺には理解できない。絶対に何かが違うと思った。
ただ、係長への怒りは湧いてこなかった。こんなに奥さんを苦しめてるのに。
これが彼なりの愛情表現なのか?認めたくない、認めたくないけど…。

「でも、ほら…清水君も素敵だよ。いつも凄く感じさせてくれるし」

俺を慰めるように、唯さんは頭を撫でてくれた。
かえって情けなくなった。いつの間にか涙がポロポロこぼれていた。

「最初にうちに来た時から、この人ならって。清水君じゃなかったら断ってた」

俺は黙ってレコーダーのスイッチを入れると、
いつもはできるだけ優しく脱がせる唯さんの服を荒々しく剥ぎ取った。
唯さんは少し驚いた表情を見せたが、
屍肉にかぶりつく野犬のように唇とむさぼると、大人しく身を委ねてきた。
俺は形の良い乳房をひしゃげるほど強く揉みしだき、
何もしないのにドロドロに愛液が濡れた性器を舐めまくった。

「ああぁん…清水君…凄い…凄いわあ…」

唯さんが恍惚の表情で悶える。シーツを掴み股間から何度も潮を噴いた。
俺は涙を拭おうともせず、いつも以上に硬く怒張したペニスを挿し込むと、
子宮が壊れそうな勢いで腰を振った。意地になってたんだろうと思う。
彼女の体内にある係長の臭いを消し去ろうと、前から後ろから突きまくった。

「ひいいぃ…いや…いやああぁぁ~~ん」

唯さんは何度も絶頂に達し、最後は気を失ったようにベッドに倒れ込んだ。
達成感と喪失感が押し寄せる。こんなセックスは生まれて初めてだった。

俺は唯さん横に体を投げ出し、レコーダーのスイッチを切る。
そして、まだ荒い息の彼女を強く抱き締め、耳元でささやいた。

「好きです。唯さんのことが好きです」

唯さんは何も言わなかったが、涙が彼女の頬を伝うのが見えた。

翌日、会社に辞表を出した。

突然のことに直属の課長も人事担当も驚いたが、実家の都合だと押し切った。
休憩時間、係長に呼ばれ「うちのことはどうするんだ?」と詰め寄られたが、
「墓場まで持って行きます。奥様に宜しくお伝えください」とだけ答えた。

同僚や先輩たちは、婚約者を失ったショックから俺が結局立ち直れなかったようだと
勝手に推測したらしく、送別会を断っても波風は立たなかった。

実際、急な決断で何の準備もしていなかった。
ぺーぺーの若手とはいえ残務処理もあり、何日か会社に出ざるを得なかった。
自宅アパートも引き払い、とりあえず実家に引っ越すことにしたが、
業者も手配していない。最後の数日は入社以来初の有給を取って荷造りに専念した。

全てが終わって荷物搬出の前日、会社に足を運んで上司や同僚に最後の挨拶をした。
係長は俺の目を見ず、少し寂しそうに「残念だよ」とつぶやいた。
俺の人生を歪めた張本人だという思いはあったが、退職前に殴ってやろうとか、
そういう気持ちには最後までなれなかった。彼の性癖は絶対に共有できなかったが、
形はどうあれ奥さんを愛してるのに変わりないんだから。

何より、本人にそのつもりはなかったかもしれないが、
係長を介して唯さんと出会えたことで、婚約者の死は知らぬ間に乗り越えていた。

夕食を終えアパートに戻ると、部屋の前に唯さんが立っていた。

「主人の手帳にね、住所が書いてあったから…」

俺は何も言わずドアを開けた。部屋に入ると唯さんは俺の首に腕を絡め、
唇を押し付けてきた。この時、俺の決心はついていたと思う。

「お願い。抱いて…」
「レコーダーは持って来たんですか?」
「もう…バカ…」

荷物の梱包が済みガランとした1Kの小さな部屋で、俺は唯さんを抱いた。
係長に監視されていた時のような欲望に任せたセックスとは違う。
最後のラブホテルの時みたいに意地になったセックスとも違う。
安心感のような、揺るぎない愛情のような思いに包まれて深々と唯さんを貫いた。

「ゴメンね。傷つけてゴメンね」

俺の腕の中で、唯さんは泣きながらうわ言のように繰り返した。
コンドームは着けず、彼女の中に何度も何度も精を吐き出した。
精も根も尽き果て、並んで横になったのは夜明け前。
小さな布団の中で、俺の胸に顔を埋めて唯さんがつぶやいた。

「好きです。清水君のことが好きです」

俺は強く強く彼女を抱き締めた。

地元に帰って再就職した俺の元に唯さんが来たのは、その半年後だった。
係長は泣いて離婚を思いとどまるよう懇願し、しばらくゴタゴタした。
俺も何度か出向いて頭を下げ、温厚な係長に首を絞められたりもした。
彼の思いは痛いほど伝わってきたが、それでも俺と彼女の意思は固かった。

ある意味「不貞」だし、請求されれば慰謝料も払う覚悟はできていた。
もっとも、カネの問題じゃないことも当事者3人には分かっていたし、
係長と唯さんの間も含め、金銭のやり取りはないに等しかった。

今は子供も生まれて幸せに暮らしている。
俺の中に残っていた婚約者の影は、妻の唯が完全に消し去ってくれた。
夫公認の「間男」だった頃を思い出すと今でも胸がチクりとするが、
妻を誰かに抱かせようとは、幸い一度も考えたことがない。
これからも考えないと思う…たぶんね。