俺には彼女がいた。
誰もが振り返るような美人という訳ではなかったけど、華奢で髪の毛がさらっさらで顔の小さい女の子で、髪が長かった頃の水原希子に似ていた。
その子の名前は希子とする。
俺は希子が大好きだった。
希子も俺の事が大好きだったのだろうと思う。
しかし、お互い仕事が忙しい身で、中々時間を合わせる事が出来なかった。
俺は1人暮らし、希子は実家暮らし、俺は忙しいものの1人暮らしのため比較的自由だった。
しかし希子の実家はかなり厳しく、外泊や夜間の外出も困難だった。
俺達はまだ体の関係は一切持っていなかった。
もちろん俺は関係を望んでいたけど、時間も無く中々勇気も出せないでいた。
きっと凄く大切だったんだろうと思う。
でも、キスはたまにした。
俺はそれが嬉しかった。
希子も嬉しそうにする。
真っ白に透き通った肌が、紅く染まるのが分かる。
幸せだった。
話は一変するが、俺は高校生の頃からとにかく麻雀が好きだった。
パチンコなどには一切手を付けた事はなかったが、麻雀がとにかく好きで、社会人になってからも1人でふらっと雀荘に立ち寄っていた。
しかし、それが段々エスカレートしていき、生活も自堕落になっていくのが目に見えて分かった。
いつも綺麗にしていた部屋が段々汚くなっていき、仲の良い友達はいたが、あまり家には呼ばなくなった。
そして、希子の事は変わらず好きだったが、このどっちつかずの関係に少しイラつき始めていた。
連絡もほとんど取り合わない、3ヶ月会わないなんて事もザラだった。
俺はそんなつまらない思考を振り払うかのように麻雀にのめり込んだ。
根城は決まっていたが、初めて見る看板を見つけるや否や、レートなんてお構いなしに飛び込んでいった。
まさに雀ゴロのような生活になっていき、入れ替わりでガサが入ったなんて事もあった。(知り合いの後日談により判明)
そんな中、久しぶりに希子とお出かけする事になった。
某リゾート地で涼みがてらショッピングを楽しんだ。
あまりに久しぶりなもんで、少し緊張してしまったが本当に楽しかった。
車の中で井上陽水の少年時代を唄っていたら、
「何だかおじさんみたいね」
なんて言われたりしながら、あっという間に時間は過ぎた。
その帰り、混浴温泉の看板が目に入った。
俺は、もしかしてこれはいいキッカケか?と内心テンションが上がっていた。
信号待ちでデカデカと看板が目に入ったため、彼女も気付いているはず。
「温泉か~いいなあ~最近行ってないし、たまには行きたいな」
俺は白々しく彼女に聞こえる声で呟いた。
「希子とは行った事ないし、行こうよ」
やった言えた!!と俺の気持ちは高ぶった。
しばらくの沈黙の後、信号が変わる寸前に彼女は口をゆっくり開いた。
「・・・いやだ」
俺は何が起こったのか分からなくなった。
俺が勇気を出せば応えてくれるものだとすっかり思っていた。
だってもう2年も付き合っていて、お互い大人だよ。
俺は心底落胆した。
そして、何だか俺は彼女に引導を渡されたような気持になった。
帰りの車内は終始無言。
別れ際も無言。
何も言わず俺は彼女の家から車を走らせ帰路についた。
そして後日、俺は別れを告げた。
もうどうでもよくなってしまった。
正直な話、ヤレなかったとかそういう問題ではなく、今までの苦悩などを含めて無駄だったのかと思ってしまった。
完全に俺自身を拒絶されたような気がして。
急にどうでもよくなってしまった。
でも別れを告げた直後の彼女の反応は、俺にとってあまりに意外だった。
そして、希子が初めて涙を見せた瞬間でもあった。
華奢で女らしい希子だったが、人前で涙を見せたりは一切なかったので俺は戸惑った。
もうボロボロ泣いてた。
「ごめんね、ごめんね」
「傷付けてごめんね、分かった別れよう、本当に好きよ」
ボロボロ涙をこぼしながら希子はそう言い、俺の元を去って行った。
俺はただただその場に立ち尽くしたが、それからはもう連絡を取る事は無かった。
そして、俺は仕事と麻雀だけの生活となった。
仕事が終われば、麻雀。
呼び出されて高い所に行く事もあったが、基本的には根城にしている雀荘でひたすら打ち続けた。
そうこうしているうちに、どんどん生活が荒んでいった。
家に帰らなくなり、電気やガスが止まった。
家賃の支払いも遅れる事が増えてきた。
やがて、給料の全てを麻雀の種銭にするようになったが、そうすればもうまともな生活は送れない。
給料日から1週間で残り2万円。
家賃はまだ入れていない。
そんな事もよくあった。
家賃を稼ぐため、一晩で多く稼げるレートの高い所へ行くようになり、勝てばいいが負ける日だってもちろんある。
そんなに世の中上手くいかないよね。
上に書いたような状況の中で高レート麻雀に負けた時は、本当に自殺しようかなとも思った。
サラ金にも少しだけ手を出してしまった。
その時は返済なんて出来るわけもなく、負ければ死にたい。
勝てばまだもう少し生きていけるの繰り返しだった。
ある日、俺は駅の近くをウロウロしていた。
雀荘帰りで沢山お金を持っていたから、ただ何となく日の目に出てきただけ、そんな感じだ。
そうしたら偶然カナに会った。(少し倉科カナ似)
カナはその昔付き合っていた子で、実に5年ぶり位の再会だ。
カナ「え・・・久しぶり!!!!!」
俺「おおお・・・・久しぶり、元気だったか?」
カナ「元気だよ!◯◯(俺)は!?」
俺「まぁ何とか元気かな」
正直、荒んだ俺の生活は雰囲気や顔から露呈されているような気がして、あまり長い事一緒にはいたくなかった。
俺「まぁカナも元気そうで何よりだ。じゃあね」
カナ「あ、待って、連絡先くらい交換しておこうよ!久しぶりに会えたんだし今度みんなで飲みに行こう!みんな俺に会いたがってたよ!」
俺「そうか・・。分かったありがとう。じゃあまた連絡する」
そう言えば昔の友達なんてほとんど会っていなかったな…懐かしいな~。
久しぶりに家へ帰り、そんな事をずっと考えていた。
何だか皆が自分よりもずっと遠くへいってしまった気がして、取り残されているというよりも、どんどん自分から堕ちていくような感傷ついでに、早速カナにメールをした。
「今日はありがとう。懐かしい気分になりました」
ブーッブーッブーッ。
「はや・・・」
あまりの返信の早さに思わず声に出た。
「今駅前の居酒屋さんにいるの!ちょうど俺の話をしてたところだったんだ!これから来れないかな?」
いきなりの展開にかなり動揺したが、昔の皆の顔とカナの顔が浮かんだ。
俺ももしかしたらもう一度みんなの中に入っていけるかも知れない。
まともな友達とまともな生き方が出来るのかも知れないと、飛躍し過ぎではあると思うが、その時は大真面目にそう思った。
「これから行くよ」
少しお洒落をして、家を出た。
こんなワクワクは、希子の時以来かも知れないな・・・。
そういえば希子、何してるかな・・。
そんな事を考えている内に目的地に到着した。
威勢の良い店員に席まで案内されると、そこには昔と何ら変わらない同級生達が大声で出迎えてくれた。
「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
「久しぶりーーーーーーーーーーー!!!!」
「なぁにをしていたんだお前は!!」
昔と変わらない友達に、俺は涙が零れそうになったけど、ギリギリのところで堪えた。
ひと通り言葉を交わした後、皆が突然ハッと何かを思い出したようにニヤニヤし始めた。
「何だよ一体お前らいきなり~」
なんて言っていたら、奥に、あまりグループの雰囲気に溶け込めてはいないけど、見覚えのある顔を見つけた。
希子だった。
俺は目を疑った。
このメンバーとの接点なんて一切無いはず。
何でここにいんの?
ていうか、門限は?
俺は混乱した。
希子は下を向いている。
死んでいるのか?
希子は突然立ち上がり、席を後にした。
どうやら生きているようだ。
突然な出来事であまりの混乱に、そう思った事を鮮明に覚えている。
しばらくして希子は戻ってきたが、特に会話は無かった。
皆との楽しいお酒に、いつまでも思い出話に花を咲かせていた。
時間も遅くなり、皆さんそれなりに出来上がってきて帰る雰囲気になった。
それじゃぁ皆で帰ろうとなった時、それぞれの帰宅手段について話していたら、俺が希子を送っていけと無茶振りが飛んできた。
皆ニヤニヤしている。
これが目的だったのかな・・・なんて考えながらも、とりあえず皆と別れ、車へ向かった。
飲酒運転じゃないよ、代行で彼女のウチを経由して帰ろうと思ったんだ。
車に戻り、とりあえず助手席に希子を乗せ俺は運転席に乗った。
しばらく沈黙が続いたが、突然堰を切ったように希子が話し始めた。
「あの時は本当にごめんなさい。本当は、凄く凄く嬉しかった!!でも私、自分の身体がコンプレックスなの。見られるのが嫌なの。見られたらきっと嫌いになると思った。でも本当は一緒にお風呂も入りたかったし、初めては俺とも決めてた」
驚いた。
突然そんな事まくし立てられても…でも冷静になって整理すれば、俺が欲しかった言葉を一気に言われたのだと気がついた。
俺は、少し冷静になって今までの思いを希子に打ち明けた。
そしたら何と、希子は俺と別れた直後家出をしたそうだ。
今も1人暮らしをしていると。
そうか、だからこんな時間まで出歩けてるのかと合点がいった。
俺「そもそもどうしてあのメンバーと仲良いの?」
希子「たまに行く服屋の店員さん(カナ)と仲良くなって、そしたら俺と知り合いだって分かって・・・」
そこからはモゴモゴしちゃってよく聞き取れなかったんだけど、多分仲良くなったけど、俺の連絡先を知っている人が誰もいなかったみたいなんだよね。
本当はそれをキッカケに俺と再会出来ればなんて考えていたけど、まあそんなだから結局今の今まで叶わなかったと。
けど、たまたまカナが俺とばったり会った。
だからカナはあんに必死に連絡先を聞いてきたんだなぁ…と、そんなこんなで色々積もる話をしてたんだ。
しばらく時間が経って、ふと気づくと希子の顔が凄く近くにあるんだ。
向こうも少し酔ってるから全体的に紅く火照ってて、正直心臓がバクバクした。
目もトロンとしていて、何か全てがエロく感じた。
もう爆発寸前と思ったら希子からキスをしてきた。
懐かしい感覚と嬉しい気持ちが交錯して、よく分からなかったがとにかくもう無我夢中でキスをした。
そして俺は恐る恐る希子の身体に手を伸ばした。
少しビクッとするが、拒まない。
俺は車の中にいる事なんて完全に忘れてた。
2人とも夢中になって、お互いの身体を確かめ合った。
思った通り、希子の身体は透き通っていて柔らかい。
細くて強く抱き締めたら折れちゃうんじゃないかなんて時々考えてた。
そしてとうとう、俺は彼女のズボンに手を入れた。
小さい声が彼女から漏れているのが分かった。
そのまま下着の中へも手を入れた。
凄く濡れやすい体質なんだと、俺は初めて知った。
どんどん彼女の息が荒くなり、苦しそうにする。
痛い?苦しい?と声を掛けたが、首を横に振る。
お互いにどんどんヒートアップしてきて、希子は身体をよじりながら俺に抱きついていた。
そして、そのまま挿入俺は生まれて初めての避妊具無し。
そして希子は処女喪失。
最初は痛がっていたけど、最後の方はあまり痛がらなくなった。
そして、希子と寄りを戻した。
そして、その日以来俺は麻雀を一切断ち切った。
あんなに荒んだ生活もみるみる内に元の姿を取り戻し、部屋も綺麗になって、自分で言うのもなんだが雰囲気も元に戻ったような気がした。
希子は別れてからの俺の生活に対し、特に何か言ってくる事はなかった。
借金も完済し、俺は作戦決行を試みた。
2人で休みの時、思い出のリゾート地へドライブに行った。
あの日のように楽しく買い物をし、帰り道にあの日と同じ信号にわざと引っかかった。
「あ~久しぶりに温泉入りたいな~、希子と入った事ないしな~」
と白々しく言った。
希子は少し口を膨らませながら
「良いよ」
と笑った。
そして俺はプロポーズをした。
頑張って少しだけど、貯めたお金で指輪も買っておいた。
彼女は泣きながら
「こんな私でいいの?」
と言った。
俺は感極まって、
「もちろん」
としか言えなかった。
その後は特に問題もなく入籍まで出来た。
意外だったのは、希子のお父さんが反対をしなかった事。
「娘を守ってくれてありがとう」
と言われた時は2人で泣きそうになった。
そんなこんなで、今は元気な男の子も産まれ幸せに暮らしております。
あ、希子の言っていた自分の体のコンプレックスの話だけど、皮膚病とかそういう話じゃなくて、単にペチャパイだったからw