あたしは、かなり若い彼とベッドを共にしていた。
家出してきたという自称十六歳の男の子の悩みを聞いてやって、そのままなんとなく。
『なんとなくクリスタル』なんて小説があったっけ。
彼とは面識があった。
市立図書館で、あたしは司書補助のパートをしているのだけど、よく本を借りに来る子なんだ。
『北川淳史』と図書カードにあった。
「開高健が好きなんやね」
いつだったか、彼が『開口一番』という文庫を探してカウンターに来たのが最初の出会いだった。
彼の貸し出し履歴には開高の作品がずらっと並んでいた。
あたしは神経質そうなそのメガネの青年に微笑みかけて、検索の仕方を備え付けのコンピュータ画面で教えてあげた。
「横山さん?」
あたしの名札を見て、おそるおそる口を開いた。
白い頬に濡れたような赤い唇が印象的だった。
まだ穢れを知らない、みずみずしい輝き。
「北川君、あったよ。でも今借り出されてる。残念ね」
「そっか」
そんなやり取りが何度かあって、よく本のことや開高健のことを話す仲になった。
あたしは別に、彼に性的な魅力などを感じていなかったんだけど、聞けば彼は、その時からあたしのことを異性として意識していたという。
おませな子ね。
進路のことが発端で、生活態度にまで土足で入り込む父親と口論して、彼は家を飛び出した。
後先考えない性急なところは思春期にありがちなこと。
あたしにだってそんな時期があったな。
一度来たことがあるあたしの家に、昨日の晩、雨の中、彼はずぶ濡れになってやってきて、玄関の前に佇んでいた。
コンビニの帰りだったあたしは、彼を見とめて、「どうしたの?」と問うた。
「家を出てきちゃった・・・」
「なんでまた。とにかく入りなさいよ」
そのまま放っておくことも出来ないので、彼を家に入れてあげた。
幸い認知症の旦那が施設にお泊りの日なので、あたしは一人だった。
食事もしていないと言うから、あたしが晩御飯にするつもりの筑前煮と味噌汁を用意してあげた。
よほど腹が減っていたとみえて、ぺろりと平らげた。
「お風呂入んなよ。これ、旦那の下着とパジャマだけど」
旦那には麻痺があるので、穿かなくなったトランクスとパジャマの上下を衣装ケースから引っ張り出してきてあげた。
彼が風呂に入っている間に居間に床を用意した。
片付いていない狭い家なので、あたしの隣で寝かせることにしたの。
テレビも点けない静かな夜。
雨の音だけが雨戸を叩く。
あたしはウィスキーのロックを、彼には淹れたてのコーヒーをあげた。
居間でひとしきり飲みながら、とりとめもないことを話した。
家出の理由は聞かなかった。
話したかったら彼から口を開くだろうし。
「どんな本読んでるの?」
「うーん、レ・ミゼラブルかな、今は」
「岩波の?」
「うん」
「長いでしょう」
「全四巻。横山さんも読んだ?」
「もちよ。あんたぐらいの時かな。やっぱし」
「旦那さん、悪いの?」
「もう、あたしのことなんか解ってないんじゃないかな・・・」
ぽつり答えるあたし。
「大変だね」
「色々あるわよ。女も五十になれば」
そう言って、あたしは寂しく笑った。
「俺さ、親父とやっちゃったんだよね」
「けんか?」
「うん、まあ」
「で、出てきちゃったんだ・・・」
「うん」
「あんたも、色々あるのよね。これからも」
「ごめんね、横山さん」
「謝んなくてもいいってば。さ、寝よ」
あたしは電灯を消そうと伸びあがった。
そのとき、タックルされるように淳史君に倒された。
「ちょ、ちょっと」
「横山さんっ」
淳史君の顔があたしのおへそ辺りにあった。
「あつし君?どうしたの?」
「俺、したい・・・」
およそ意味は理解できた。
健康な男子なら仕方のないことだった。
ただ、どうなんだろう?
簡単にさせてよいものなんだろうか?
そんな七面倒くさい考えも飛んでしまうように、淳史君はあたしの胸を弄りだした。
恥ずかしながら、ご無沙汰の五十女に火が灯ってしまった。
「わかった、わかった。じゃ、しようね。誰もいないんだし」
「ほんと?ありがとう」
ぱっと彼の表情が明るくなった。
「で、君は、したことがあんの?」
意地悪く、あたしは尋ねてやった。
かぶりを振る淳史君。
「だろうね。ま、いいや。あたしに任しとき。さ、脱いだ、脱いだ」
あたしもパジャマを脱いで、惜しげもなく貧乳を披露してやった。
彼も着たばかりのパジャマとトランクスを脱ぎ捨てた。
バーンって感じで長いペニスが飛び出て来た。
もう準備完了って感じ。
「すごいね、こんなおばちゃん相手に、おっ立てちゃって」
「横山さんはおばちゃんじゃないよ」
嬉しいことを言ってくれる。
あたしもショーツを取り去った。
彼の目があたしのあそこに釘付けになる。
当たり前か。
「じっと見ないでよ。恥ずかしいから」
「ごめんなさい」
「さぁて、童貞君のお道具を見せてもらいましょうかね」
そっと彼に手を伸ばした。
熱い肉の硬さがほとばしる若さを表現していた。
「硬い。すごいよ淳史君の・・・」
「みんな、こんなもんですか?」
「みんなって。あたし、そんなに知らないよ」
「旦那さんとか」
「ま、似たようなもん」
半分剥けた包皮を下げてやり、亀頭を露出させ、口に頬張った。
「は、む」
「うあっ」
女の子のような悲鳴を上げる淳史君。
熱感が頬に伝わってくる。
彼の目がフェラチオをするあたしをじっと見つめていた。
あたしも見つめ返してやる。
『どう?』って目で訊いてやった。
ペニスがビクビクしてきて、童貞君の限界が近いみたいだったから、あたしは口を離して聞いた。
「そろそろ、入れてみる?」
「え?」
「その様子じゃ、どうしていいかわからない状態ね。いいわ、あたしが上になって入れてあげるから、よく見てらっしゃい」
「は、はい」
従順な淳史君は、もうあたしのペースにはまっていた。
布団の上で体を横たえている淳史君の、真ん中に柱のようにそそり立つものがある。
これを跨いで、あたしは腰を下ろした。
もう十分にあたしは潤って、期待でいっぱいだった。
本当に久しぶりに胎内に迎える男根。
彼の亀頭をあたしの糸を曳くような蜜で湿らせて、ゆっくり挿入を試みる。
「あっつぅ」
「うっ」
押し広げられる女管・・・。
長らく凝り固まっていた肉の筒が弛緩して、淳史君を飲もうとする。
「ああ、ああん」
思わず声が出てしまった。
弾むようなしなりを見せる淳史君のそれは、あたしの腰の動きによく馴染んだ。
じわじわと抜こうとすると腰を持ち上げて突いてくる。
予期せぬ動きにあたしがイカされそうになる。
「ひゃっ。いい、あつしぃ・・・」
呼び捨てにして感情を高ぶらせた。
「横山さん・・・」
彼も応えてくれる。
「あっ、あっ、イッ、イッちゃうよぉ」
悲痛な淳史君の叫びと同時に下から突き上げられ、胎内を熱いモノで満たされた。
彼の童貞は、あたしによって失われた・・・。
余韻に浸りながら、あたしは彼の上で繋がったまま胸を合わせた。
そして口づけをした。
あの濡れたような赤い唇に。
「淳史君、よかったよ」
「お、俺も。早かったかな?」
「ううん。十分」
メガネを取った淳史君は、どこか従弟の浩二に似ていた。
あたしの最初の人・・・。
もう何十年も前の甘い思い出。
「ね、横山さん、ナマで出しちゃったけど・・・」
「いいのよ。もうあたし生理がないの。だから・・・」
あたしは恥ずかしく思いながら彼から離れて、ティッシュペーパーを股に当てて後処理をした。
すごい量だった。
拭いても拭いても溢れてくる。
「ちょっと、ごめんね。お手洗いに行ってくる」
「あ、はい」
背を向けて淳史君はトランクスを穿こうとしていた。
戻ってくると淳史君はもう寝息を立てていた。
あたしも少しウィスキーで酔っていたのか、そのまま寝てしまった。
「おはよう。寝られた?」
あたしは隣の淳史君に声をかけた。
彼はもう起きているようだった。
「ううん」と伸びをする淳史君。
今日は日曜日だった。
「どうする?帰るの」
「そうだね。親父に叱られるだろうな」
「そりゃ、無断外泊だからね。覚悟しなさいよ。素直に謝るのよ。男の子だからお父さんも心配してないだろうしね」
「うん。女のところに泊まったって言ってやるんだ」
「ばかね。もっと叱られるよ」
「見直すかもよ。いつまでも子供扱いだからな」
「生意気言って」
フレンチトーストを作ってあげて、二人で遅い朝食を食べた。
親御さんから、捜索願が出てませんように・・・。