彼女の典子を連れて、地元の花火大会に行った。
いつもは地味で、デニムとTシャツみたいな恰好ばかりで、色気も何もないと思っていたんだけれど、うちの親が「せっかくなんだし、典子ちゃん、浴衣着せてあげるわよ」って言ってくれて、シックな紺色にアジサイ模様の浴衣を着て。
髪も上げてメイクもして、いつもよりすごく綺麗で、倉科カナみたいな雰囲気。
うちの姉たちは胸が大きいから、浴衣を着るたんびにタオルをいれられて、「暑いし苦しい~」と文句を言っていたけれど、典子は自称Cカップの実際はBカップくらいだから、タオルをいれなくてもすんなりと綺麗なラインになっていた。
いつもはスニーカーとかで、すぐ隣を歩いている典子が、慣れない下駄のせいで、数歩後ろをついてくる。それもなんか新鮮でよかったんだけど、慣れないことって、あんまりするもんじゃない。
歩くスピードが遅くなってきたから「どうかした?」って聞いてみたら、「なんでもない」って言いながらも足を引き摺っているように見える。
しゃがみこんでみたら、下駄の鼻緒のところで擦れて、ひどい靴擦れみたいになってしまっていた。
「花火まで時間もあるし、そこに座って待ってな。コンビニで絆創膏買ってくるから」
って、すぐそこにあった露天で冷たい飲み物を買って渡して、典子を置いてコンビニまで走った。
その河原から走ったら3,4分くらいでつくくらいの距離のコンビニなのに、人が多くてうまく走れないからか、なかなかたどり着かない。
絆創膏を買って戻ったのは、典子を離れてから15分ほどたってからで、さっき座らせたはずのベンチに典子はいなかった。
慌てて探してみても、人が多すぎて見つからない。
「典子!」と声を張り上げてみても、祭りの囃子で典子に聞こえるはずもない。
しばらくして花火が始まってしまった。
花火は数十分続くから、なんとしてでも典子を見つけ出して、いっしょに見たい。
そう思って、出店の人とかに、典子の特徴を言って、探して回った。
わたがしの屋台の親父さんが、
「アジサイ柄の紺色の浴衣の綺麗な子、少し前に見たぞ。なんだ、はぐれたのか?男といたみたいだったけど。たしか、あっちへ行ったと思う」
親父さんの指差した方向へ走っていくと、公園へ続く道があって、その道のほかには草がぼうぼうに生えているところしかない。
進むとしたらこっちだと信じて向かってみたら、花火の音に紛れて、かすかに声がする。
声のするほうへ向かってみたら、トイレがあった。
入口にヤンキーっぽい男がひとり立っていて、
「ちょっと今トイレ使えないから、ほかあたってくれ」
ってニヤニヤしながら言うんだよ。
明かりだってついてるのに。
おかしいと思って、そいつを押しのけてトイレに入ったら、トイレの床に腰を高くかかげて四つんばいみたいにさせられて、後ろからペニスを挿入され、さらに前の男のペニスを口で奉仕させられている典子がいた。
髪も、浴衣もぐしゃぐしゃで、太ももや尻には赤い手の痕がある。
拒んだときに、叩かれたりしたのだろう。
「通報したぞ!!」
と、大声を上げたら、男たちはびっくりして逃げていって、支えを失った典子が床に崩れ落ちた。
慌てて抱き起してみたら、頬も赤くはれていて、涙でぼろぼろ。
「慎司くん、ごめん……拒んだんだけど……俺くん以外の人の、入れられちゃった……」
って、しゃくりあげながら言う。悪いのは、典子をひとりにした俺の方なのに。
「大丈夫だから。警察、本当に呼ぼうか。あいつら捕まえてもらわないと……」
「ううん、もういい。こういう事件のとき、警察いって辛いのって女の子って聞くもん……もう、帰りたい……ごめんね、花火いっしょに見られなくて」
俺の胸元をぐしょぐしょに濡らしながら言うから、みんなが花火を見ている間に、そっと典子を連れて帰った。
帰宅して、典子の姿を見た母親はびっくり。
典子の許可を得て話したら、
「かわいそうに…むごいことされたんだね……。今夜はあんた、一緒に寝てあげなさいな。不安だろうから。こんなかわいい子を一人にしたあんたにも責任はあるんだよ、男なんだから、きちんと責任とりなさいな」
って背中をばしばし叩かれた。
「えっと……じゃあ、典子。結婚しよう」って声をかけたら、せっかく止まってた涙が、またドバーって。
「息子のプロポーズに立ち会う母親って、ちょっと珍しいわよね」
って母さんも笑ってた。
それから数年して、今俺たちの間には、一人の女の子がいる。もう3歳になった。
しばらく祭りってものには行っていなかったけど、この間テレビで見てから「花火みてみたい!」ってうるさいから、三人で祭りに行くことになって、地元へ帰省した。
もうぜったい、二人から目を離したりしない。
祭りシーズンってなると、わくわくするし、カップルだったら一緒に行きたくなると思う。
でも、お互いぜったいに離れないようにしろよ。